2018年10月13日

10月13日の記事


10月13日の記事
毎年の遅い夏休みにまとめて4冊

『数字の国のミステリー』 マーカス・デュ・ソートイ 新潮文庫 
素数・フラクタル・確率・暗号解読・カオスなど数学雑学好き向けの一冊。面白い。けど読んだことある内容が多く入門書?
やっぱりこの30年で一番の驚きは素数と通信(暗号化)の相性の良さかな

『歴史は「べき乗則」で動く』 マーク・ブキャナン 早川書房
やっぱり早川書房は目利きだ。「バタフライ効果」のようなたとえ話ばかりのカオスの意味が改めて理解できた気がする
タイトルの「べき乗」は結果であり、より重要なのは「臨界状態」と「相転移」
種の絶滅から大規模紛争、地震、金融市場まで予測しようそしても予測できない理由
そして、またここにもフラクタルが出てくる。が、事の大きさはべき乗による
(何もかも平均で説明するのはやはり本質を見落とすことも)

ただ一つ納得しかねるのは「砂山」で、「偉大な砂粒」は存在しないという見かた
砂粒にも大きさや形の違いがあり、落ちる場所ととの関係で影響の大きさが決まるのでは?
でも、筆者が考えているように、それ以前の状況も無視できない
「知の館」がなければ「数学」が現代に引き継がれたかも怪しい
そうなるとガリレオもガウスもいなく、そういう意味では筆者の考えにも同調できる
英雄は2度現れるのか?3度目はどうなるのか

それと、なぜか「幸福な家庭は・・・」というトルストイの言葉を思い出す
安定に比べ臨界状態は様々という人間社会のべき乗則を作家は見抜いているのかもしれない


『超予測力』 フィリップ・E・テトロック&ダン・ガドナー 早川書房
あやしい装丁と一見怪しいタイトル。でも中身は至極まっとう
「未来を見通すことはできない」「確実なことは何もない」という原則
そのうえで予測力を上げるポイントを解説しているが、どれも言われると当たり前に感じる
「思い込みの排除(客観性)」「多様な意見の尊重(謙虚さ)」「博識」「数字に強い」など
しかしモームが言うように虚栄心は100の姿で忍び込んでくる。システム1以上に排除は難しい

そして厄介なことに、何度外そうが「言い切る者」が社会的名声を得る点にも忘れずに触れている
言い切る者は一面的なものの見方しかしないので「迷いがない」「力強い」と誤解されがち
なにより分かるはずもない未来について社会が「答え」を望むからだが、
この力がべき乗で社会に蓄積されていくようにも思う
そういえば、去年「北朝鮮の攻撃が近い」って(逃げを打ちつつ)真顔で言っていた評論家は今も出てくる


『高い城の男』 フィリップ・K・ディック 早川書房
早川書房コーナーに行った真の目的はこれ。長い小説はしばらくやめようと思っていたが
ヒューゴー賞受賞、アマゾンビデオでシーズン3まで制作されているということで買ってしまったが・・・
正直「なんじゃこりゃ」という感じ。まずPKDに期待する異世界観が希薄
「日独が対戦に勝利した世界」というパラレルワールドだが、あまり物語と関係がない
易経が重要なアイテムなので、「チャイナタウンを舞台にしたソ連とのスパイ戦」の方がしっくりきそう
日本で受けてもよさそうな設定なのに、いまいち受けていない理由が分かってしまった
大和人が書いた沖縄の小説や記事を読むような隔靴掻痒感も

いくつかの登場人物のストーリーが並行して進み、若干の交差はあるが期待する仕掛けは、ない
(ラストが腑に落ちないのは、よくあるといえばよくあるが)
「人間とは」「自分とは」「偶然と運命」「真と偽」「過剰」などPKD的要素がちりばめられていて
それぞれの人物描写は短編とは比べられない厚みと安定性があるが・・・それなら他にもあるしなあ
日本のファンに評価の高い「ユービック」にしておくんだった

AIがいよいよ市民的な認知を得て、再び注目を集めるPKDだが、アマゾンが目を付けたのが面白い
「エレクトリックドリーム」というビデオシリーズで短編から10本を作っているが
その中に「自動工場(Autofac)」も含まれているのは皮肉なのか何なのか
だいたいジェフベゾスっていかにもPKDの登場人物っぽい。一枚めくると・・・
「変数人間」や「流れよわが涙、と・・・」「人間以前」とか面白そうなのは先に権利買われちゃったかな
ブレードランナー、トータルリコール・・・映像化された作品も多いが脚本家が整理しないと難しい

もう一つ、新潮社つながりでサリンジャーとかまとめて何冊か読みかえして気づいたのは
西洋の作家は「臨界状態」を書いているんだなと。作品の圧力の違いは宗教ではなくこっちだとおもう
英米の作家は「板挟み」とか「懊悩」とか深くても比較的、圧が小さいように思うが
PKDは足元から現実を歪める

悩める新潮に対して最近の早川書房は鋭さとセンスに磨きがかかっている
今回の3冊も翻訳から装丁まで冴えている
特にPDKはこの第三帝国の紋章はともかく、2色刷りが
過ぎ去った未来になってしまった「SF」を新しく見せている

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Posted by 比嘉俊次 at 13:12│Comments(0)科学
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