2018年05月29日

言語学者が語る漢字文明論

言語学者が語る漢字文明論言語学者が語る漢字文明論 田中克彦
 漢字があることでどれだけ日本語の学習を困難にし、広がりを欠く要因となっているかを主張。ウラル=アルタイ語族(トゥラン・ツラン文化圏)としてのユーラシア的広がりを自覚スべきだと訴える。
 そして日本語内の漢字の問題点として「根本概念すらわかったことにるる猛烈な力を持ち」「結論を与えた行き止まりの文字」「音・声を殺す文字」だとして、音で伝える言葉や思考に与える害を説いている。もちろん単に漢字を否定しているわけではなく、むしろ漢字を使い続けるのであれば現代中国の用法を学ぶべきと。飽くまで日本語内にある漢字を問題としている
厄介や障害などの宛て字からくる弊害、ベイコクジンやワセイエイゴなどの珍妙な言葉が疑問なく流通し、アカウンタビリティも「説明責任」と漢字を与えられると、それがあたかも在来種かと錯覚してしまうほどの生命が宿り自律化する謎も解ける。
 とはいえ、自分自身もいまさら漢字なしでは考えを表現できると思わない。「行き度もまりの文字」というが、探せば大昔の文書から「共和」なんて言葉出てくる歴史と文化があり2文字で表せるのは便利だ。またジャルゴンは漢字検問に限らない、「2U」「マジ卍」人間は集団を作り、サインを求める生き物だから。大学の時代から記誦詞章への戒めは続く
 しかし読んでいくと、改めて超高機能なピクトグラム(筆者は漢字を「超文字」と表現。冗談半分で言っているようだが確かに世界中の人が漢字覚えれば筆談が可能になる。ただ常用漢字だけでも2千字。10個のアラビア数字とはワケが違うが)としての漢字の素晴らしさ、方言というよりも多言語世界である「中国」でそれが必要とされたこと、現代中国政府が進める普通話政策の含意が見えてくる。どうして言語学は日本でこれだけ注目されず、漢字博士の方が尊敬されるのか。
 さかのぼって、かな文字作り、明治の「共通語」の作り、文体作り、西洋文明の訳語作りなど、相当な苦労も浸潤してしまえば、だが
 もう一つ感心したのは表紙の筆者のローマ字表記が、tanakaが小文字だがちゃんと先に表記している。平昌五輪やトランプ大統領のツイッターで「東アジア人の名前は性」が先が繰り返し、画面に文字出て、音活かしもあるが、一切話題になることなく素通り。ローマ字や音に対する認知度・態度は確かに低いのかもしれない
 言文一致を意識して書いているためか言葉が雑な感じがしてしまい、敬遠していたが他の本も読んでみたくなった。やっぱり本はめくらないと分からない。ネット社会ではタイトル勝負が加速しそう。そうなるとますます漢字の出番か


知れば恐ろしい日本人の風習 千葉公慈
 おどろおどろしいタイトルだが、至って真面目な習俗の本。ただ人類学的・民俗学というよりも筆者が駒沢女子大学教授で、曹洞宗の住職ということもあり、精神文化に関する洞察が深い。僧籍にありながら仏教が入ってくる以前の土着の価値観を踏まえており、読みやすい
 たまたま上の書を読んだ後なのだが、アニミズムを説明する段で「かつてモノとは生命体という意味で用いられ、人を「人物」と呼ぶのはその名残り。やがて本質の意味をなす「体(軀))」が続き「物体」という言葉が出てきて・・・」となると、筆者に全く居丈高な態度はないのだが反射的に感服させられてしまう。漢字を語る人・多用する人は、絵画やクラッシク音楽などを「語る」傾向があるように感じるが偶然なのか?漢字恐るべし
 日本の習俗をたどっていくと、朝鮮・中国を超えてインドまでたどり着くものも多く、そのうちいくつかは当然ペルシャの影響も受けていると考えていると、文化というのは面白い

理科系雑学 竹内均
 懐かしい再編本。ニュートンも久しく読んでいないが、関心はただ一つ=ダークマター。いろいろ世の中が進んでいるように見えるが、この正体を発見するのは人間なのかAIなのか。プマプンクの謎まで解けちゃえばいいのに
 一方で生命について、海底についてもわからないことが多いのもまだまだ面白い

古代日本誕生の謎 武光誠
 すっかり筆者の愛読者になってしまった。探しているわけじゃないけど、パラパラとめくって「人間」やそれが作る「社会」を前提に書かれている歴史の本は意外と少なく、武光本に行き着いてしまう。欧米では「人間」前提の行動経済学などに力が入っているが、日本ではそれらは「ハウツーもの」「サイドネタ」的な扱いしか受けてないように見られる

他、しばらく文庫本限定だが意外といい本がある。というより、文庫が早くなっている気もする。ありがたい(言語学者が~は文庫本で1050円だが)。買ってから「しまった」と思っても昼食1食抜けばあまりソンした気分にもならない

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Posted by 比嘉俊次 at 21:53│Comments(0)言葉
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