2013年05月04日

高等弁務官

高等弁務官 沖縄の帝王 高等弁務官
大田昌秀  
久米書房 1984年 4800円

4.28関連でライブラリー映像を引っ張り出すも、キャプションが不足しているため、この本を引っ張り出す

やはり研究者としての大田昌秀はさすがだ。アメリカに行って1次資料からあたり、463ページに小さな文字でギッシリと「詰め込んで」いる

これで4800円・・・一体誰が買い、読むというのか?と、思ったときに弁務官のインタビューを見ていて、どこか理解できない部分が符合した-「沖縄はサンフランシスコ講和条約で切り離されたのではなくて、大和と切り離せると見たから講和条約の3条がある」

西洋の歴史は単なる英雄伝ではない。「統治」や「契約」等々こちらから見ると複雑な概念の下の「力」の変遷と支配の在り方が記されている。それがわかるとカーの「琉球の歴史」の内容とそれらを下敷きとした彼らが描こうとした「線」が見えてくる・・・歴史を「点」で見る傾向があるこちら側とは違う
しかも文字や映像にして「残す」ということの重要性を先に知っているものだから、アメリカに当てた歓迎の文書や、映像では高等弁務官が主席と仲良くやっている所や、琉球政府幹部達を前にリラックスしたバックショットなど当時の映画さながらに演出された映像が残されている
・・・これを、本を読まない、歴史を知らない、傀儡という言葉を知らない人が見るとどうか?50年後には文書と映像しか残っていないかもしれない。この大田の本にしろ「読んだ」という人にお目にかかったことが無い。今、本屋の主力「商品」はハウツーや「なるほど」とひざをたたきやすいエッセンス本。注釈だらけの本なんてこの先大学生でも読まないのかも
しかし歴代弁務官の映像は、率直に「カッコイイ!」と思えるもの。キャプションのカチンコを持って出てくるコリスポンデントの助手(そこらにいた兵士かも?)などを見ると、非常にリラックスしており、アングルが「お決まり」なところを見ると「指定」のアングルがカメラマンには教授されているのだろう。みな、マッカーサーばりに周囲を一瞥してタラップを降り、勝者の余裕で笑顔を振りまき、部下の前では威厳を正す、というパターン

ただ、検閲があり米軍の意向に沿わない報道が制限されていた中でも、残っている映像はある
 1950年代前半の映像だと思われるが、木の枝にくくりつけた日の丸を高々と掲げ米軍に抗議する住民の映像が残っている。でも、それぐらいしかない。その後、星条旗は星を増やしつつ沖縄で日の丸を圧倒して行く。日の丸が沖縄で勢いを盛り返すのは屋良ら教職員組合が教科書とともに「密輸」を始めた60年代後半からだ

しかし・・・事大主義、理論の誘導そして倒立、など過去を知らなければ人間はこうも簡単に自分の立っている場所を見失うものかと読んでいて改めて驚かされる

また本書の高等弁務官へのインタビューにはRBC取材班も同行しており映像が残っているが、映像は大田の筆よりさらに遠慮が無い。取材は1984年。歴代の高等弁務官は老い、「琉球」はすでに客観的に振り返る過去のひとコマ・・・彼らの下で働いた者たちへの「楽しい思い出」と、理と情を尽くした屋良朝苗への「敬意」の明らかな違い。やはりアメリカ人はフェアで正義があると再確認

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Posted by 比嘉俊次 at 11:39│Comments(0)社会
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