2011年10月29日

なぜ若者は保守化するのか

 なぜ若者は保守化するのか                                
 『なぜ若者は保守化するのか』
 反転する現実と願望
 山田昌弘 著

 「格差社会」や「未婚」「少子化」など若者を取り巻く閉塞感について、おそらく雑誌連載されたものをベースに単行本化したものと思われる
全体としての統一感はないが、著者の主張は伝わる。納得もできる

この本で最も気になるのは一線で活躍する社会学者が「マスコミが自説を取り上げてくれない」と何度ももらしていることだ
著者の主張する「(経済的)格差」は2006年にNHKが「ワーキングプア」というドキュメントで世論を喚起して後、特に若者の貧困が深刻で、結婚どころではなく、そのため子どもも作れず、日本は人口減少と高齢化という大きな構造的な問題に陥っているという主張は何度と無くTVだけでなく新聞でも指摘されてきたはずだ

それなのに著者は「マスコミは・・・」と言っている・・・とても興味深いことだ

著者に限らず「マスコミは・・・」と口にする人が増えている。以前は政治家や芸能人のセリフだったのが、マスコミを通じて世間に伝播したというのもあるだろうが、この言葉の背景にはもっと社会的な変化があると思う

私の主観では、興味深いことは「これからはネットの時代。従来のマスコミは地位がどんどん低下していく」と言う人から「マスコミは・・・」というセリフを聞くことが多いことだ

インターネットが普及した2000年頃には「ネットに接続すれば、だれでも世界に向けて情報を発信できる」と紹介された


確かに、これは事実だ
インターネットを通して、誰でも世界に向けて情報を発信することができる。が、発信しても受け手がいるとは限らない

個人的な発信のほとんどが特に世間の注目を集めることは無い・・・声をあげても返事どころか、振り向いてくれる人もいない状態があることが1つ

そしてもう一つは情報の賞味期限が恐ろしく短くなったということ
古くから(有益な)情報は商品性をもっていたが、現代はその流通量も売り場も拡大し競争は激化している。簡単に言うと、次から次へと情報が入ってくるので、古い情報はどんどん押しやられていく
TV業界で言えば通信網の発達で世界中の天変地異の映像が即日送られてくるようになった。当初はあまりに強烈な映像が連日流れたため「異常気象」という言葉があったぐらいだが、以前から天変地異は毎日世界のどこかで起きていてそれを伝える手段が無かっただけのこと

実体経済でも「定番商品」はほぼ消滅した。コンビニの売り場に3ヶ月残っている商品は限られている。出版界にしても新刊もどんどん出てくるが最近のベストセラーは著者、話題性、タイトルなどで目を引くかどうかがポイントになることが多い(著者の山田氏も本書のタイトルといい、新語を作り出すなどがんばっている)

「情報発信量の増大」と「情報の賞味期限の短縮」。つまり情報は怒涛のように目の前を流れ、去り留まることができない

皮肉なのは、そうなると何とか情報を伝えたければ繰返し訴える必要があり、例えば本の世界では実用書は「焼き直し(同じ著者による別タイトル、あるいは著名な本の解説本)」が多くなるし、商品で言えば「定番」に「季節限定」を出したり、新しい成分を追加したり、パッケージを替えたりして「新しさ」を演出する、つまり情報量が増える、増えた情報の中で光を放つには更に新しい情報を付加する必要がある・・・と際限が無い(昔から際限は無いのでサイクルが早いという表現が正確か)

つまり、ネット社会≒情報発信量が増大する社会においては「なぜ私の声(商品)を取り上げてくれない」と思う人が確実に増えてくる。声をあげても振り向いてもらえない。これは精神衛生上よくないはずで、社会によろしくない影響を与えてくると思う

実はTVというのは元々この際限の無い世界にある。TVニュースは新聞や雑誌に比べて「訴え」や「問いかけ」よりも「速報性」に自らの存在価値を見出している(選挙の開票速報には各社それこそ全力をかたむける・・・2時間と待たずに選管から結果が正式発表されるのに、だ)。そして「人気定番」となった番組は再放送やDVD化による情報の固定化がある。そもそもCMは繰返すことでそれを達成している・・・というのは参考にならないか・・・


最後に・・・
日本の今後を案じるなら、なぜ沖縄社会を研究しないのだろう。沖縄は他府県より早くアメリカナイズされた社会で今の社会の変化は沖縄を知っていればある程度予見できたはずで、実際、マネジメント論の高橋俊介教授などは沖縄に目をつけている
「格差社会(農地解放されず、政商が存在し資本が集中)」も「生涯未婚率」も沖縄社会が先頭を走っている。一方で沖縄は「少子化」はしていない。また沖縄は都市圏の中南部とそれ以外の地域は経済構造も違い、そこまで加味した横断的な調査があれば、多くの知見を得られるはずだ

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Posted by 比嘉俊次 at 22:32│Comments(1)社会
この記事へのコメント
そういえばタイトルの「なぜ若者は保守化するのか?」だが、本書では経済的な困窮などから「保守的な思考にならざるをえない」と言うような生活面での保守化について言及しているが、政治的な保守化(というより右傾化)については漫画家の小林よしのりが「国家を持ち出せば、他人を売国奴などと非難しつつ、自分は尊大に振舞える」と分析していたが、それはいつの時代のトガッた若者にもあることだろう

安保世代の若者は「平和」「平等」「愛」という理想を掲げることで暴力さえ正当化していた

バブル世代は「ブランド」をまとい、「マニュアル本(デートの演出法などがあった)」を熟読し「オシャレで個性的なオレ」をアピールしていた

いずれも「反転する現実と願望」という副題はいつの時代も共通するのか・・・流行に乗りきれない自分にはわからない
Posted by 比嘉俊次比嘉俊次 at 2011年10月30日 00:30
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