天才数学者はこう賭ける

比嘉俊次

2013年12月21日 21:29

天才数学者はこう賭ける
誰も語らなかった株とギャンブルの話
ウィリアム・パウンドストーン 
松浦俊輔 訳
青土社

情報工学の泰斗、クロード・シャノンや同じくベル研究所のジョン・ケリー二世といった数学者とエマニュエル・キンメルや”ロンギー”ツウィルマンといったギャングにギャンブル好きのエドガー・フーバー、そしてジャンクボンド王と言われたマイケル・ミルケンに連邦検事時代のルドルフ・ジュリアーニ、ポール・サミュエルソンとその弟子でLTCMのロバート・C・マートンの写真が扉についている

多彩だ。でも内容的には雑多というほかない。404ページの本文に16ページの原注。15名近い主要な人物にその関係がよく見えない関係者、無駄に入組んだ章立て・・・面白くなりかけたところで話が変わる
マニー・キンメルが駐車場から経営を多角化する過程で、スティーブ・ロスが経営に加わりワーナー・ブラザーズを買収しコングロマリットを変容させていく過程はたった2ページ・・・だいたい読者の想定が見えない

数学的なポイントとしては
マーチンゲール方式→負けたら勝つまで2倍の額をかけ続ける。理論上は成り立つが、実際には掛け金が幾何級数的に上がっていくので成り立たない)
ケリー方式・基準→エッジを勘案しつつ掛け金を調整する。つまり「信じる度合い(もちろん合理的に算出された)を賭ける」。勝った分は再投資に振り向けられるので、こちらは幾何級数的に増え、かつ破滅を避けられる
つまりケリー方式は裁定取引(アービトラージ、広義にはシステムトレードまで?)の基となる考え方。実際にエド・ソープはそれで成功し、ほかにも競馬などに応用し成功例がある
という2つの「必勝法」についての解説と評価とエピソードが断続的に雑多に並んでいる。ケリー基準が良いのが分かるが、どうやってエッジを計算するのかという問題が残る

実は「シャノンの魔物」と呼ぶ投資法が紹介されている。これは長期的な傾向を持たない、ランダムウォーク状態にある銘柄が前提だが、資産をキャッシュと株同額に2分し、毎日定時に機械的に上昇or下降分をキャッシュと株式時価が同額になるようポジションを調整するというもの。
つまり株価が上がれば上昇分の半額を売却、逆なら下がった額の半分を買い増しという直観に反する売買をするが、これは結局ケリー方式の特殊な例ということになり、手数料(胴元の取り分)で「実際にはダメになるだろう」とシャノンは言ったというが・・・

しかし数学的モデルもさることながら、現実の事象にはファットテールがままあるということを思い起こさせることだろう。実際にはファットテールをどう対応するかで明暗が分かれる。通常の事象ではリターンも限られるためレバレッジをかけてしまうので、明暗のコントラストはさらに鮮明になる

・・・とこれだけ数学的な視点から引っ張っておいてオチが「シャノンは企業訪問によって会社を見極める、バリュー投資でした」では・・・「In&Out」か!
それと言われてみると、いまだ人口音声が成功していないのは不思議だ
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