神は数学者か?
神は数学者か?
万能な数学について
マリオ・リヴィオ
訳:千葉敏生
早川書房 2300円
久しぶりに繰り返し読んだ本。求めていた内容。「数学」について究極に知りたいのは―
数学は「発見」なのか「発明」か?
なぜ形而上学の世界の産物であるはずの「数学」が物質世界の未知の世界を予言しうるのか?
現実世界の正規分布と確率への収斂など不条理なまでの数学の有効性について―
数学界の巨人(筆者は魔術師と呼んでいる)、デカルトは代数を座標に乗せることで幾何と結合した。ニュートンは数学で物質界の事象を表すことで2つをつなげた
その勢い「世界」は統一されるかに見えたが、不確定性、非ユークリッドが登場。「数学」は根底から覆されるかに見えた
しかし、これは筆者の「数学の概念は発明であり、概念同士の関係は発見である」という意見に同意できれば、哲学のような破滅的な状況にはならない。それど所か、数学は現実世界(=物質世界)との関連性をますます強めている
この世の3つの世界=「物質界」―数学のある「形式的世界」―人間の心(脳?)にある「心象の世界」。このうち物質と形式的世界は数学が接続したといいっていいだろう。形式と心象は表裏一体の関係かもしれない。問題は物質と形式(物理法則)から作られる「世界」の生物がどうして(何のために?)「心・知性」を持つようになり、それが形式世界の在り様を知ろうと欲しているのか?つまり物質界と心象の世界の関係は・・・結局プラトンの世界に戻ってしまう
今や数学はエレガントとは言えない領域に進出しているが、新しい地平を発見してくれそうだ。その鍵は素数だったりするのかも
しかし残念なことに
日本人数学者の名前は出てこない。日本の数学、数学者のレベルは十分に高いはずだが、数学の根源的な問の発展はほぼ「欧米人」に独占されている感がある。それは本の著者が欧米人という事でも、もちろん他の地域の算術が劣っていたためでもなく、根本にギリシャ式の哲学がないのが原因ではないのか?
2300円・・・数学の本は売れないから高いのだろうが、日本に早川書房があるだけでもありがたい。翻訳も素晴らしい
哲人たちといいピタゴラスといい、なぜ処世術ではない事をこれだけ突き詰めたのか?楕円や結び目理論、そして数学それ自体が純粋な思考上の産物に見えて、後々にその効力を物質界(≒現実世界)で示したように、この古代ギリシャの思考様式は思えば不思議、奇跡的だ。現世、現実を離れられない他の文化とは全く次元が違う。孔子にしろ、カントにしろ、時間軸さえ無視すればどの文化でも生みえたかと思うが、古代ギリシャ人がいなければ、後世のどの文化も算術を超えた数学を生み出せたとは思えない。例えば「素数」という定義は生まれただろうか?ギリシャ人のこの思考こそ、オーパーツであり、物質界と形式的世界をつなぐミッシングリングではないか
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