不道徳な見えざる手 不寛容の本質 三島由紀夫文書読本など

比嘉俊次

2017年11月29日 12:53

この2カ月は立ち読みをしっかりして購入
3割以上のヒット率

左上から反時計回りに
「京都ぎらい」 井上章一
いまさらながら。この手の本はウチナーンチュが表題だけを見る限りでは、「数年住んであたかもその地域を知っているかのようによく本なんか出す勇気があるよな、と思う系統」の本かと思ったら著者は洛外とはいえ京都市の生まれ育ち。立ち読みでようやく本書の価値を知る。アマゾンだけではやぱり不足。民俗学的な史料価値が出そうなほど、土着の生活感のある記述。いろいろ言っても京都への愛着があふれているのも読んでいていい

「ゼロからわかる虚数」 深川和久
数学史的な部分は読んでいて面白い。負の数も無理数も、そして虚数も算式であらわされているだけでなく、その数式から導き出される解が現実社会と呼応している。「有理数より無理数の方がはるかに多い」というのは、ダークマターを思わせるし、虚数が実数と同じ広がりを持つならば「別次元」の暗示かもしれない・・・とすると、虚数の座標を作るのはオイラーを超える天才かAIか。複素数の「世界」ってあるのかとか、想像すらできなくて混乱してしまう
そんなこと以前に愕然としたのは虚数がらみの数式はほとんど理解どころか読むことすらできなかったこと!数式を飛ばして読んでいるうちに、高校数学以降の記号の意味すら忘れていることに気が付いた。そもそも虚数の数式をちゃんと見たのはもう15年以上前。面倒で計算する気にもなれない。英語ができ人より数式をかける人がよっぽどうらやましい

「日本人はどこから来たのか?」 海部陽介
DNA鑑定の導入以来、人類史の解明は飛躍的に進んでいるが、山脈をどう超えたかや海峡をどう渡ったのかはDNAではわからない。筆者が言う通り、黒潮の中、宮古から沖縄島に渡り定着したのは人類史の大事業といえる。海流やターゲットの大きさ、渡った後の住環境確保などを考えると、ベーリング海峡越えより難しかったのではと思える。・・・意外と沖縄島は南下組が定住して数万年のち、船で製法と交流開始、ということもありえるのか?

「不寛容な本質」 西田亮介
日本も若く有望な社会学者がどんどん出てくるようになった。しかも単なる文化論ではなく、資本主義という社会をきっちり数字でフォローして心情の変化の軌跡を求めようとしている。が、。「昭和的なものの終わり」と「予見可能性の低下」を説明されても「なぜ若者を理解できないのか、なぜ年長者を許さないのか」という副題を腹落ちさせてくれることはない。世代間の断絶は古代からある。戦後社会も安定していたわけではない。多様化は確かにキーワードだが。
筆者が後書きで書いているように「極端な意見は好まれがち」(社会が不安定な証左でもある)な社会状況下で、ウェーバー、中根のような「発見感」を追うあまり題字勝負に走る社会論が多い中で、真摯で視野の広い社会学者が出てきたのは民主主義の歴史の重みか

不道徳な見えざる手 アカロフ・シラー
読み物としては面白かったが、行動経済学の本がいくらでもある今では特に新しいものは。でも、過去の事例を改めてみると経済に奇手はないし、傍から見ると「なんでこんなありえないことを」と思うようなことを、何度でも人間は信じるものだと確認できる。詐欺はなくならない。日本経済についても経済学者以外が「国債発行残高は心配ご無用と」いろいろな主張を始めているが、4年後が楽しみ

文書読本 三島由紀夫
大学卒業時に手放したことをずっと後悔していたが、ネットで中古を発見。しかも美品で800円。いい時代だ。その作品は好みではないが、やはり文章は三島が第一級だと思う。
改めて読み返してみると「読んで見て美しい文書作り」という領域にとどまらず、単語ではなく分を見る、「小石」のランダム配置、時制の混在など、明治以降の西洋的価値観に染まる前の、筆者の言葉を借りると「理性より情緒」的な和文の特色を自らは最大限に利用していることを誇示しているようにも思える。正確さを超えた日本語の懐の深さを知らせてくれる

関連記事