物語 アメリカの歴史
物語 アメリカの歴史
猿谷 要
中公新書1042
筆者が「あとがき」に「この本はアメリカの歴史についてのプライベートなノートです」と断っているように、「物語」というより、アメリカと縁が深い筆者の体験談に基づくエッセーといった感じだ
一応英国への反乱・建国からイラク戦争までの流れを追った展開にはなっているが、あとがき込みで272P(その後にちゃんと年表もついている)の新書なのでエピソードはいくつかのテーマに絞られている
インディアンの征服、理想に基づく新しい天地、ジェファソンが建国から恐れていた奴隷制度がもたらす弊害、やがてそれが南北の火種となり南北戦争へと至る流れ。Manifest Destiny(つまりは歴史に何度も登場する思想そのもの)を旗頭とした拡張と、資本の集中による経済の発展、その裏で続くレイシズムとヘイズとティルデンが争った大統領選挙の裏取引、そしてそんな時代に渡米した内村鑑三
高い理想を世界に掲げたウィルソンとそれを許さない国内事情、そしてケネディ。やっぱりTルーズベルトとジョンソンはあまり触れていないが、レーガンとマクガバンについてわかりやすい対比をしている
囲みのコラムも硬軟織り交ぜたもので読みやすく、なにより筆者がアメリカに虜にされているのがいい。単にアメリカ好きという意味ではなく、国家の成り立ちやその規模、成し遂げたこと、克服できないこと、そしてデモクラシー(という理念)と星条旗による統合など・・・コネチカットとアーカンソー、ニューヨークとハワイ、自分が知っているだけでも確かにアメリカは何もかもが幅広い、が、歴史が浅くさほど深くはないという特異性
先日読んだ「アメリカ型成功者の物語」と共に、通史と共にこうした本が日本語で読めるのに歴史が敬遠されるのはなぜか・・・
91年に初版が出て、2013年に33版。「版」となっているが、人種問題に結構なページを割きながらオバマ大統領誕生に触れていないところを見ると「刷」に近いか?いや、著者は1923年生まれとあるので、あるいは・・・
筆者は「1985年にゴルバチョフがソ連に登場してから4年後にベルリンの壁が崩壊するとはいったい誰が予測したか?」とあとがきで触れているが、人種問題の深刻さについて触れた筆者が、初版から20年と待たずに(父ブッシュから3代後に)白人ではない大統領が登場すると思っただろうか?聞いてみたいところだ
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