中華人民共和国史

比嘉俊次

2011年08月29日 14:43

『中華人民共和国史』
天児 慧  岩波新書646

日中戦争の「国共合作」から49年の人民共和国成立を経て、1990年代までのおよそ70年を中心としたもの

しかし、あとがきまで含めても207ページの新書で歴史、ましてや中国史など描き切れるわけもなく、かなりの駆け足で、読むうちに湧いてくる疑問に応えてくれるわけでもなく、調べが必要になる用語も多い

例えば、事実上一党支配となっている中国の権力構造。軍の掌握が必要なのは中国史からしてなんとなくわかるが、では「総書記」と「主席」の違いや、国務院総理(行政の長)や「政治局員」というものがどの程度のポジションなのかが分からない

おそらく「人治ともいえる中国ではポストは目安でしかない」という著者の判断で、そこに行数を割くよりも、構図が見えるようにしたいという意図からだと思う。実際、鄧小平は日本のニュースでも「中国の最高実力者」という分かるようでよく分からない形で紹介されていたが、やっぱり説明が不十分では構図のディテールが見えてこない
あと、度々開かれる「第14期6中全会」や「中共全国大会」などの「会」も位置づけがよく分からない

つまり、入門書にはなりえない

でも不親切な本と言うわけでもなく冒頭紹介されている中国史を動かしている5つのファクター(ナショナリズム・近代化・伝統・国際インパクト・革命)論は分かりやすい(ただ本文中ではそれをあまり引用していないが・・・)
毛沢東の「戦争常態論」「根拠地論」など時折深める各論は非常に分かりやすく、この部分は入門編として参考になった
毛沢東はじめ、深謀遠慮、権謀術数、繁文縟礼、いろんな登場人物があり、著者は鄧小平に関する著書もあるようだが、この本を読んで読者が興味を持つのは死ぬまで総理の座を守った周恩来ではないか。どんな体制にせよ、権力の中枢にこれだけ居座り続けた人はそう多くない

また「ナショナリズム・近代化・伝統・国際インパクト・革命」という社会を動かす要因も、「革命」を除けばおおよその国に応用できる社会・歴史分析のツールではないか・・・「革命」も世界的には普遍か?
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