甦る海上の道・日本と琉球
『甦る海上の道・日本と琉球』
谷川健一 文春新書560
基本的には「マレビト」の折口信夫の説を踏襲した論考。
南朝について落ち武者となった八代・宇土(熊本)の名和氏が佐敷に拠って第一尚氏を興したというもの。
世界史的にはノルマン人が各地で興した征服王朝や欧州人の米大陸制圧など海事に優れた集団が寄留し支配者となる例は多い。ましてや鉄がまったく採れない沖縄では鉄器を持った武力集団が上陸すれば防ぐ術は無かっただろう。
また王権を「禅譲」されたことになっているはずの第二尚氏の第一尚氏に対する厳しさや、第一尚氏の八幡信仰(名和氏は源氏)なども「第一尚氏=九州倭寇説」を支持しているともいえる。少なくとも為朝伝説よりは根拠のある話。いや、為朝伝説は落ち武者伝説が混同したか、あるいは意図的に差し替えられものの可能性も・・・
また鉄屑の残滓(⇒鍛冶屋)などを元に宮古人のルーツについての考察も興味深い。宮古に「大津波で村が滅びた時、大和の男が宮土(保良)漂着し、避難して難を逃れた大ツカサと出会って結婚し子孫が栄えた」という伝説があるとは知らなかった。
宮古の人は沖縄島のウチナーンチュと比べ、色白で目鼻立ちもスッキリした人が多いというのも食の違いよりも血の違いなのかもしれない。沖縄島と宮古は300km。実は見える距離の島伝いに繋がっている鹿児島よりも遥かに「遠く」、同緯度ながら生物学的な違いも多い。何より石垣には大津波の伝承もあり、当然に大津波の過去はあったはず。あの平坦な島が大津波に襲われると島民の大方が流され、血が入れ替わることは十分ありえる。
過去において歴史は時間がたてばたつほど検証が困難だったはずだがDNA検査などで有史以前。5千年や1万年前のこともわかってくるだろう。
人類史を見ると封建制度で土地に縛られる以前の人間は驚くほど活発に移動している。また貿易や征服による富の移動も人を航海・長駆へと駆り立てる。北のアイヌの歴史も面白そうだ。デンマーク人より先にアメリカに行った人もいるのではないか。人類学や考古学で当たり前に語られる日本人のルーツが歴史としてきちんと紹介されるようになると、また北海道から沖縄までの島々に住む人たちのすばらしさが再確認されると思う
関連記事