テレビは総理を殺したか
文春新書794
『テレビは総理を殺したか』
日本テレビの元政治部記者・菊池正史著
テレビと政治を評した著書や論評は多いが、多くはTVの仕組み(儲けの出し方・素材の選び方・編集の考え方等々)を知らない、的外れなものが多く、TV局の中にいる人間が描いたものは自己弁護になりがちだが、本書はなかなか正直に書いてあると思う。
TV局にはTV局の理論があり、考え方がある。報道も当然にその影響を受ける。読めば視聴率に対する程度の差はあれ(今の所、沖縄の「現場」は視聴率に対して東京のようにシビアではない)、基本的な考え方というか理論は変わらないな、と感じる。
タイトルと帯を見ると「売らんかな」という「軽い本」という感じがするが、著者の取材体験―現場の動きと、それがどう選択され、ONAIRされ、さらにその後それでどうなったのか―内省と疑問、飾らない率直な意見を交えながら綴られている
(TV記者が書いた本でGRPの解説まで及んだのは初めてではないか?)
基本はメディア論であるが、取材の裏話、記者も人間であるゆえにどうしても逃れられない「取材対象者の好き嫌い」なども満遍なくちりばめられて、読み物としても飽きない
沖縄に日本テレビ系列局がないため、日テレの報道番組を見る機会は少ないが、こうした本を現役社員(現在は編成局勤務との事)が出せる局なんだな(というのも、TV業界で聞く、日テレの社風とは違う感じがする)
それにしても、分かりやすい構図(その究極は「敵か味方か」)を作り出し、人間の中に潜む闘争心や自己主張・自己実現欲とシンクロさせて多くの人心をつかむ・・・洋の東西、主義主張を問わず、太古の昔から度々出現するこのリーダー像は、今後「理想を目指そうというタイプ」や「中庸の実をとるタイプ」のリーダーより出現頻度が圧倒的に上がっていくのではないか。匿名の揚げ足取りがTVニュースでも堂々と出てくるようになっては(堂々と持論を述べるのが仕事であるはずの政治のプロが「政党幹部A」などと憶測・主観的分析までも含めて言いたい放題のヒソヒソ話・コソコソ話が電波に乗って国民の世論形成に影響を与えてしまっている)、これでは敵を撃滅するような勢いが無ければリーダーとして生き残れまい
政治はまつりごと。さしづめTV報道はお祭りなのか
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