公共事業が日本を救う
藤井聡 著『公共事業が日本を救う』
初版は2010年10月。震災の混乱から本格的な「復興」段階へと移行する際には、この本と著者は必ず注目を浴びるだろう
なぜなら8章の「巨大地震への備え」は首都直下型地震や、連鎖発生も危惧されている東海・南海・東南海地震を例に挙げて説明しているが、地震後の水害の恐ろしさなど、まさに今回の東日本大震災で現実になってしまった事ばかりだ
また、公共工事がもたらす経済効果(例えば道路網整備による物流の充実、港湾機能の重要性など)や、公債発行による財政赤字⇒財政破たん懸念が杞憂である事まで補足的に記している
言っている事は正しいと思う。私自身、建設新聞などに寄稿し、土木建設業の奮起を促してきたし、ニュースの中でも建設業が以下に県経済において重要であるか、その課題、さらにまさに道路整備の危機などをリポートしてきた。「だが」というか「だから」というか、この本がこれから「権威」を持ち、今度は逆に「公共工事に懐疑的=悪」のような空気になってしまう事を危惧してしまう
著者は「マスコミが使う統計がおかしい」と指摘している。確かに、指摘の通り。おかしな指標を使っている社もある。だが、一方で著者も「保有台数1万台あたりの道路延長」という指標を持ち出し、「米国やカナダのドライバーはゆったりと道路を使っている」と言っているが、国土が広い国で道路の総延長が伸びる傾向があるのは当然ではないか?
実はこうした「統計を使って」というのはかなり注意が必要で、道路整備の必要を訴える団体は、大都市部や沖縄のように人口と車の密度が高い所では「自動車1万台あたりの道路延長」と使い、北海道などでは「面積当たりの道路延長」など違う指標を持ち出して「道路が足りない」という同じ結論を導き出すのである。その結果、沖縄はいつまでたっても渋滞がなくならないし、北海道では「クマしか通らない」と揶揄される道路ができているという現実がある
著者も「そんな無駄な公共工事には賛成しない」と断ってはいるし、十分承知だと思うが、その無理無駄が残され続けているという現実がある。著者は第1級の「技術者」「研究者」であるが、「効率的税金の執行」という面ではどうか。例えば、縦割りの行政による無駄。(「国土交通省」が発足して久しいが未だに国が作る道路は旧運輸省所管の「港湾道路」と建設省所管の「国道」とがあるなど)。また積算表を見ればわかるが、特に都市部の道路の建設費は予算に比べて実は意外なほど安い。どこに残りの予算が消えていえるかと言えば、土地の取得費だ。もともと土地という資産を持っている人に「補償」という形で多くの税金が投入される・・・予算の分だけ雇用などへの波及効果があると言えるのか?
私も著者と同じように「公共工事=悪」は間違いだと言い続けているし、必要な道路が整備されない問題点も指摘してきたが、本当に「公共工事に懐疑的=悪」と極端に価値観が振れないように、出番が増え、発言が注目されるであろう著者には期待したい
他県の事情はよく知らないが、分断されている高速道路網はつなげた方がいいと思うし、地方空港の整備も防災面から必要だと思う。ただ、大きくない島である沖縄は事情が違う。
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